Spring Collection 2025 “STUNN”
どのくらいの時間が経っただろうか。
僕はパリのサントゥスタッシュ教会で椅子に座り、ただただ頭上のステンドグラスを眺めている。ここに来たことは無いのに、無性に心が落ち着き懐かしい気持ちになった。不思議な感覚に没頭して、まるでしばらくの間夢を見ていたようだった。
僕は20歳から23歳の間、カナダのケベック州にあるモントリオールのファッションスクールで学んだ。パリの街並みや言語がモントリオールの記憶と繋がってフラッシュバックしたのかもしれない。モントリオールはフランス移民が多いためにフランス文化の影響が強く、公用語としても英語とフランス語が併用されていたからだ。
東京の生活が肌に合わなかった僕は高校を卒業してからすぐにカナダへ渡り、デザイナーになるため切磋琢磨していた。僕が創ろうとしていたのはテーラードジャケットやスラックスなど名前を聞けば形が想像できるアイテムではない、まだ名前を付けられたことのないデザインだった。
学業のかたわら自分の“ブランド”を作った。ブランドと言いつつも、セレクトショップで取り扱いがあるなどの実績はなく、自分でデザインしたアイテムを自分で縫い、写真を撮っている“コレクション作成段階”に過ぎなかった。けれどどこで僕の洋服を見たのか、カナダのスタイリストやセレブリティから洋服を試してみたいというような連絡が来るようになった。日本から離れた土地でブランドの名前は少しずつ広まっていて、僕はこのままずっと海外で暮らすつもりでいた。
卒業間近の2011年3月、僕は友だちとバスケットボールをしている時に日本で地震が起きたことを知った。絶望するような被害に目を疑い、パニック状態の日本のために何か出来ることがないか考えた。
その時に思いついたのがファッションショーだった。
僕は自分が作ったアイテムをランウェイに出し、その場でオークションに掛けた。それが僕のブランドの最初で最後のお披露目となった。全てのアイテムが完売し、全額を日本の団体に寄付した。卒業後に僕は東京へ戻り、glambの一員に加わった。
それから13年間が経ち、僕はフランス語が聴こえる教会にいる。glambという20年以上も続くブランドのデザイナーとなり、3ヶ月に1回のコレクションに全力を注いでいる。当時の僕からは夢のまた夢のような生活だ。でもなぜだろうか、僕は今、あの頃の自分と向き合っている気がした。もし僕がそのままモントリオールで暮らしていたらどんなデザインをしていたのだろう。ステンドグラスに映る聖像が「あの続きをデザインするんだ」とささやいているように感じた。
僕は当時の“ブランド名”をコレクションのテーマに据えて、人目を浴びることなく誰かの元へと行ったアイテムたちとその後継者となるアイテムをラインナップしようと決めた。動けなくなるほどに見る者を魅了すると言う意味を込めて当時の僕が自分のブランドにつけた名前、
“STUNN”
glamb Head Designer
TK
- ModelZen
- Felix
- Marco
- PhotograghyYuko Takakai
- Hair&MakeShota Nishiyama
- StylingTK
- Akihiro Takaiwa