チャーリー・ワッツへ
寺本優太:有賀さんとのコラボレーションは前回から2年越しでの発表となりました。ストーンズにも大きい変化があったと思います。この期間のストーンズを有賀さんはどんな風に見ていましたか。
有賀幹夫:この2年は世の中も本当に厳しかったけど、ストーンズファンにも悲しい出来事がありました。ストーンズも2020年のアメリカツアーがコロナの影響で延期になって、去年2021年の9月に振替公演をやったわけだけど。
寺本:チャーリーが不在のステージとなってしまいました。
有賀:そうです。去年の9月のツアー延期のアナウンスは「チャーリーには療養が必要で、スティーブ・ジョーダンが代理をします」というもので。その時、チャーリーからメンバーへ「俺がいなくなってもバンドを続けてくれ」といった発言もあったはずだから。そうやって考えると、悲しいけど、チャーリーには感謝とともにお疲れさまっていうね。
寺本:一方で晩年、チャーリーからは家族といる時間を確保するためツアーに後ろ向きな発言もありましたが、それについてはどう感じていましたか。
有賀:チャーリーはね、昔から発言が面白くて、もう昔から「ツアーは行きたくない」って。どうしてかというと、家を離れなきゃなんないから。でも家にいるとドラムが叩けないと。ドラムキットないらしいんですよ、家に。だから「僕の人生は悪循環だ」ってずっと言っいた。つまり「ツアーは家から遠く離れるのでいやだ。でも家にいるとドラムが叩けない」ということで。
寺本:リップサービスではありませんが、そういうキャラクターとして発言していたのでしょうか。
有賀:ザ・ローリング・ストーンズという世界で最もビッグな活動をしている中で、チャーリーはものすごく一般人感覚があって、それがすごくチャーリーの個性だった。その一方でやるときは徹底してバンドに付き合いますから。そういうメンバーがいたから、ミックとキースも好きに、それこそ喧嘩も含めて、やれたんだなって思いますね。
寺本:有賀さん自身にもチャーリーとの思い出はありますか。
有賀:ソロのジャズでのライブでもすごく撮らせてもらいました。日本にも何回も来ていますし。ただ僕は徹底して、あくまで写真家気質だから、あまり話しかけたりしたことはないですね。チャーリーのプライベートな打ち上げで一緒に日本料理屋に行かせていただいたりとか、そういう現場にも同行させていただいたけど、あまりそういうところでも無理に話をしたことはなかったですね。あっ、でもね、チャーリーの撮影を始めたばかりのころ、僕がファーがついてる靴履いていたことがあって。そしたらチャーリーがね、「それ良くないよ」って言われましたね。
寺本:そうなんですね。
有賀:うん。「動物の毛だ」ってチャーリーが。「いや、これフェイクです、フェイク」って僕も。焦った。今でもあれはフェイクだったと思いますけどね、でも「そういうの良くないよ」みたいなことはチャーリーから言われた。
寺本:ずばっと言う方だったんですね。
有賀:僕は一生懸命「フェイク」「フェイク」と言いましたね。はい。
寺本:でも納得いかない顔をしてたんですね、チャーリーは。
有賀:「んー」っていうさ。
寺本:(笑)。チャーリーから写真に対して感想をもらったことはあるのですか。
有賀:直接はないけど、間接的な思い出はあります。チャーリーのジャズのソロアルバムで僕の写真も数枚ジャケットやパッケージに使われていて。ある時、チャーリーのマネージャーから「いくつか写真の候補を渡したけど『ミキオの写真がいい』ってチャーリーが言ったから君の写真が採用になったんだよ」って教えてくれて。すごく嬉しかった。忘れられないな。
寺本:そうですね。
有賀:本人は言わないじゃないですか。「何人かのカメラマンからお前の写真を使ったぜ」とはさ。それをマネージャーさんから聞いた言葉が、今となっては、一生の宝ですね。
寺本:チャーリーと有賀さんの信頼関係を感じる、心と心のつながりを感じるエピソードですね。